先日ですね、Ubuntu 24.04 LTS のリリースがあり、久しぶりに Ubuntu の動画を作ろうかなーとか思っていたコダシマでございます。
で、その参考になりそうな記事を検索していた所ですね、@IT で面白い記事を見かけたので、Linux 好きの方、Linux に興味を持ってる方とぜひ共有したいと思ったわけで…
どんな記事かというと、2024年5月2日、「ドイツの州、3万台の自治体PCを「Linux」「LibreOffice」に移行すると発表」という見出しの記事です。
ドイツの州、3万台の自治体PCを「Linux」「LibreOffice」に移行すると発表

「ドイツ北部のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州は、自治体のPC3万台で使用しているWindowsとMicrosoft OfficeをLinuxとLibreOfficeに移行すると発表した」という書き出しから始まるニュースです。
無料で会員登録できるので、ぜひ続きを読んでみていただきたいと思うのですが、ちょこっとネタバレするとですね、欧州委員会が Windows とか Microsoft 365 に対して、個人データの扱いとかデジタル主権とかで GDPR 違反じゃないか、FOSS 導入のほうが良いんじゃないかって言った話です。
実はドイツって、Linux 界隈では何度かニュースになることをしていて、比較的最近では…って、2017年だから、もう7年も前の話になるのか…
- 「Linuxの採用を推進してきたミュンヘン市が「Windows 10」回帰へ–経緯と展望」(2017年11月29日)
- 「独ミュンヘン市、Linuxから「Windows」に回帰へ–市議会の目指すべきITの形とは」(2017年2月22日)
って、一度 Linux に移行したミュンヘン市が Windows へ戻すって言ったニュース。ミュンヘン市がオープンソースソフトウェアの旗手になるものと思ってたので、けっこう衝撃的でした。
で、このミュンヘン市が Linux にするって言ったのが 2003年05月28日の話。
※https://japan.cnet.com/article/20054741/
もう20年以上前の話になるんですねぇ。ちょっと、遡ってみましょう。
LiMux プロジェクト

2003年5月28日、ドイツ第3の都市であるミュンヘンの市議会は導入している1万4000台のコンピュータのオペレーティングシステム(OS)を、Microsoft Windows から Linux に移行することを票決したとして、Linux 界隈では「ついに行政が認めた!」といった感じで湧いたように記憶しています。ちなみに当時ミュンヘン市では LiMux というプロジェクトが立ち上がりました。
当時はドイツに拠点を置く Linux ベンダーの SUSE が関わるとかいう話もありましたが、LiMux は Ubuntu (当初は Debian)をベースに KDE デスクトップで構築されたディストリビューションで、オープンソースとプロプライエタリソフトウェアの組み合わせでした。
そして、そこから10年くらいは主に費用面においてオープンソースソフトウェアへの移行で盛り上がっていましたね。
- ミュンヘンだけじゃない–ドイツ公共機関で進むオープンソース製品の採用(2014年10月17日、ZDNET Japan)
数万単位のユーロが節約できたとかのニュースが流れていましたね。今は円安で1万ユーロがだいたい160〜170万円くらいだと考えると、ざっくり数百万円単位の削減と考えられます。けっこうな金額ですよね。
ですが、先程の 2017年のニュースとなるわけです。
この年の2月、「ミュンヘン市の市長である Dieter Reiter 氏は 2020年末までに Microsoft の「Windows 10」に置き換えたいとしている」とのことで、もちろん反対意見があったものの可決されてしまったとのことです。
その理由として「ITシステムが時代遅れで、部分的には安全ではなく、多くの場合極めて扱いにくいものになっており、大きな時間の無駄と生産性の低下が起こっている」ということで、これだけ聞くとシステム的に問題があるような口ぶりでしたが、蓋を開けてみるとオープンソフトウェアが問題というよりも、組織的な問題が大きかったようで、このシステムの移行に対して疑問を投げかける議員さんもいたようです。まぁ、そうですよね。
だって、前は1万4000台を Linux に移行ってことで、数百万円単位の削減が出来ることをわかったうえで、今回は市議会の約2万9000台の PC に導入って、しかも移行するとなると概算で約5000万ユーロっていう莫大な費用がかかり、それを税金を使ってって言うもんだから、反対意見が出るのは当然ですよね。

「別に総入れ替えしなくても良くない???」「一部の入れ替え程度でも…」って言いたくもなりますわ。
実際に、それまで仮想化ソフトだったり数台の Windows マシンで対応できてたのを、全部とっかえちゃえ!って、なんか勘ぐっちゃいますよねぇ…。
はい、実は Microsoft がドイツ本社をミュンヘンに移すという決定があり、当然市長と副市長は非難されます。
- マイクロソフトドイツが新しい本社に移転(2016年9月20日、MSPowerUser)
で、その移行が、導入は2020年に開始され、2022年末か2023年の前半に完了ってことでしたが、2020年5月、選挙の後、緑の党とドイツ社会民主党による連立合意声明の中では、「ミュンヘン市は、技術的、財政的に可能な限り、オープンな標準と無料のオープンソースライセンスのソフトウェアを重視する」としています。
- 脱「Windows」へ再び–ミュンヘンのオープンソースめぐる動きの背景(2020年5月29日、ZDNET Japan)
で、この件に関して詳しく取材されていた記事もあるのですが、Microsoftや、Oracle、SAP などのプロプライエタリソフトウェアメーカーへの回帰には8610万ユーロ(9310万ドル)の費用がかかると見積もられているようです。
- インタビューに応じたミュンヘン前市長クリスチャン・ウーデ氏(2019年10月、Linux Magazin)
そうなると、素人目からしても政治的背景が強い問題のように見えます。ただ、2003年のミュンヘン市の決定は、オープンソースを世界的なトレンドにしたことには間違いなく、欧州各地で、この分野で野心的な取り組みを進めているニュースが幾度となく取り上げられました。
- 公的予算はオープンなコードに–バルセロナ市がオープンソースへの移行計画(2018年1月20日)
そして先日のシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の決定。しかもその決定は、費用面ではなくGDPR 違反じゃないか、FOSS 導入のほうが良いんじゃないか…つまりは個人データ・プライバシーの扱い方と、ソフトウェアの透明性ってところを重視したって話です。個人的には、このシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のニュースを見た時、ミュンヘン市長への当てつけか?とも思っちゃいましたよね。

『公開なくして公金なし(Public Money, Public Code)』ベルリンにオフィスを構える Free Software Foundation Europe の EU 公共政策マネージャー Alex Sander 氏が始めたキャンペーンの言葉なのですが、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の決定は、この言葉を体現したように感じるわけであります。
まぁまぁ、フリーソフトウェアの中でも、システム云々で揉めてたりしますが、ソフトウェアの透明性で言えば一企業の開発するシステムよりも開けているのは確かな話です。
今回のまとめ
といった感じで、今回はいつもと趣向を変えて、Linuxの気になるニュースをお伝えしましたがいかがでしたでしょうか?
まぁね、ミュンヘンの掌返しと思ったニュースだったんですけれども、当時はねなんか Linux ってか、オープンソースソフトウェアが悪者にされた感じがしましたが、今となって冷静にニュースを読み解いていくと、市長・副市長の思惑が強かったんだなぁと思いました。どこの国も利権とかに弱かったりするんだろうなぁと感じるわけです。
清廉潔白を地で行くって、なかなか出来るもんではないです。コダシマもすぐに欲に目がくらみます。めっちゃイージーですよ。ですが、政治家の皆さまにあられましては清廉潔白であっていただきたいと切に願う底辺市民でした。
ってところで、今回は以上となります。