あなたは学生の頃、何してました?
コダシマは、もちろんコンピューターには興味がありましたが、特に中学から高校生のあたりには PC エンジンとサバゲーにドはまりしていました。
とにかく遊んでいた記憶しかありません。
ところが!
今どきの学生と来たらOSを開発するではないですか!
以前にも学生が開発したOS、Linux ディストリビューションの NNLinux や Alter Linux を紹介しましたが、今回は更に一風変わった Linux ディストリビューションを紹介します。
今回紹介するのは AlexandriteOS 3.0 です。
はじめに。
AlexandriteOS は、わたくしコダシマが主宰する open.Yellow.os project にも参加している Ablase のメンバーが開発する Linux ディストリビューションです。
この AlexandriteOS の一体何が一風変わっているというのでしょうか?
まずはそこらへんからお話していきたいと思います。
Linux の種類について。
まず最初に、Linux ディストリビューションについてちょっとおさらいしておきましょう。
Linux ディストリビューションは、そのパッケージ管理システムやディレクトリ構造の違いによっていくつかの種類、派生に分けられます。
主に次の4種類が知られています。
Debian 系 | dpkg や apt などで管理する deb 形式のパッケージを使っているディストリビューション。 |
Red Hat 系 | yum や dnf などで管理する RPM 形式のパッケージを使っているディス |
Slackware 系 | パッケージ管理システムに pkgtool を使っているディストリビューション。 |
Arch 系 | パッケージ管理システムに pacman を使っているディストリ |
これ以外にもまだまだありますが、主なところはこんな感じです。
これらの Linux ディストリビューションは世界中のさまざまなコミュニティや、場合によっては企業が主体となって開発されています。
特にコミュニティが大きく、情報も多いのは Debian 系です。
Linux ではトップクラスの知名度である Ubuntu も Debian 系のディストリビューションです。
そのため派生のディストリビューションも非常にたくさんあり、人気の高い Linux Mint や ZorinOS なんかは Ubuntu をベースとしているので、もとを辿れば Debian 派生のディストリビューションです。
また最近では、シンプルで安定性が高く、最新技術を積極的に取り入れる Arch 派生のディストリビューションも人気が高いです。
Linux 情報では世界トップクラスの Distrowatch.com のページヒットランキング上位常連の Manjaro や EndeavourOS がそうですね。(最近では Garuda とかも出てきましたね)
おまけですが、Android も Linux カーネルを使っているディストリビューションのひとつに数えられます。
が、主にモバイルデバイス向けなので今回のお話とはちょっと主旨が違いますね。
そんな中で、AlexandriteOS がベースとしたのは openSUSE です!
openSUSE とは?
openSUSE をご存知ない方のためざっくり説明すると、ドイツを拠点とする SUSE を中心にその他の企業や団体が支援するコミュニティー openSUSE プロジェクトによって開発されている Linux ディストリビューションで、Slackware をベースとしていますが、パッケージ管理に RPM を採用するなど特色のあるオペレーティング・システムです。
開発母体が紆余曲折ありましたが技術力は確かで、オープンソースでありながらエンタープライズクラスの品質のため、特に欧州でのサーバーでは高いシェアを誇っています。
また、openSUSE は、システムを常に最新の環境に保つローリングリリースモデルの Tumbleweed と、安定版の Leap の2種類を配布しています。
AlexandriteOS では前者の Tumbleweed をベースとしています。
なかなか通好みのチョイスと言うか、日本だとはっきりいってマイナー中のマイナーかと思いますが、個人的にはとても良いセンスだと思います。
open.Yellow.os のメンバーでもあるので、直々に openSUSE を選んだ理由を聞いてみました。
開発に至った経緯は?
ディストリビューションの開発に至った経緯は、ざっくり言えば「今までの Linux デスクトップに不満があった」から。
気に入らないなら自分で作ってしまおうってのが、素晴らしいですね。
openSUSE を選んだ理由は?
openSUSE Tumbleweed を選んだ理由としては
- ローリングリリースなのにアップデートの度にテストされているので非常に安定している
- セキュアブート対応(公式リポジトリからのカーネルモジュールも署名済みなので追加の操作不要でセキュアブート可能)
- 独自設定ツールのYaST(AlexandriteOSでは「高度な設定」という名前になっています)がとても便利
ということ。
メインデベロッパーは16歳の学生なのですが、コダシマが16歳の頃は冒頭でも話した通り PC エンジンにドはまりしていて、バイトに明け暮れ PC エンジン GT を買ってスーパースターソルジャーにハマってた時期でした。
なんかもう、考えていることが違いすぎてツライ…。
でもスーパースターソルジャーは今でも好きですよ。
AlexandriteOS
話はそれましたが、AlexandriteOS の特徴を紹介していきましょう。
今までの Linux デスクトップに不満があったという言葉通り、近代的で実用的な Linux デスクトップを実現することを目標として開発しています。
リポジトリは openSUSE 由来。
ソフトウェアの貯蔵庫であるリポジトリは openSUSE のものなので、信頼性は高いです。
ローリングリリース対応。
ベースの openSUSE Tumbleweed の特徴でもあるローリングリリースによって、面倒な移行作業無しで最新のパッケージを使うことができます。
セキュアブートに対応。
セキュアブートはコンピュータの起動時にソフトウェアのデジタル署名をチェックして、動かしてOKなソフトウェアかどうかを判断する機能です。
一般的なパソコンでは、Linux をインストールする際にこの機能を無効化してからのものが多いなか、AlexandriteOS はセキュアブート有効時でも追加の操作をせずに使うことができます。
これは安心なうえ、Linux のインストールに不慣れな人にも優しいですね。
セキュリティついでに言えば、AlexandriteOS は多層防御の考えに基づいて設計されています。
Windows 11 で話題になった TPM や、セキュアブートを利用した起動時の整合性の保護を始めとして、さまざまな高度なセキュリティ保護機能が実装されています。
また、同様にプライバシー保護に関してもとても強固で、使用者の情報を外部に送信することはありません。
しかも標準ブラウザは、アンチトラッキング機能とプライバシー保護で知られる Firefox です。
不評の機能を無効化。
本家 openSUSE で賛否のある…と言うか、けっこう不評な一部の機能を無効化して、よりストレスのない使い心地を実現しています。
例えば PackageKit というツール。
一見便利そうではあるのですが、実はこれ、パッケージの集合である「パターン」というものを使用しているため、プリインストールされていたソフトウェアの中で不要だからと消したものがあっても、「パターン」によってアップデートで復活したりしてしまいます。が、AlexandriteOS はこの機能を標準で無効化しています。
そんな感じで、より快適な環境の構築に努めています。
GNOME デスクトップの採用。
デスクトップ環境は最新の GNOME 42 が使われています。
ローリングリリースモデルの恩恵とも言えるかと思います。
GNOME 42 は現状賛否はあるものの、デスクトップの操作性とデザインによりいっそう統一感が生まれ、とてもモダンな UI です。
コダシマは好きですね。
Btrfs を標準採用。
Btrfs (B-tree file system) は、Linux 向けのコピーオンライト(コンピュータプログラミングの最適化戦略の一種)のファイルシステムです。
スナップショットという、その時点の状態を保存する機能が有効化されているので、システムが不安定になった場合でもスナップショットの状態へ戻すことができます。
設定ツール YaST の実装。
openSUSE の最大の特徴と言える設定ツール YaST を実装しています。
openSUSE といえば YaST、YaST といえば openSUSE です。
パッケージ管理はもちろんリポジトリやハードウェアまでこのツールで管理できてしまうとても便利なツールです。
見かけることの少ないツールなので、使い始めはなれが必要かもしれませんが、とにかく便利で、設定に困ればまず開いてみればいいみたいなツールです。
っとまぁ、ただのフレーバーまがいのものとは違い、これまたキチンと作り込まれた実に完成度の高い Linux ディストリビューションです。
学生のこだわりとやる気というか情熱には脱帽です。
まぁ、Linux カーネル自体、リーナス・トーバルズ氏が大学生のときに開発したものでしたね。
おすすめ記事
Gigazine: 2012年にフィンランドで行われた大学生向けの講演で、Nvidia に対する不満をぶちまけるリーナス・トーバルズ氏。
ちなみにトーバルズ氏は、ソースコードのバージョンを管理するツール「Git」の開発者でもあります。
とにかく学生の情熱は侮れませんね。
見習わなきゃ!
参考までに
open.Yellow.os の開発の軸になっている ISO イメージを作るビルドツールがあるのですが、そのツールも実は、AlexandriteOS 由来のものです。
beaver という名前のビルドツールは open.Yellow.os の開発にも欠かせません。
更にいうと、この AlexandriteOS の開発に携わっている Ablaze のメンバーの多くが open.Yellow.os の開発に参加しています。
どうもありがとう!
今回のまとめ。
ということで、今回は学生のテクノロジー集団 Ablaze の Project Alexandrite が開発する、世界でも数少ない openSUSE Tumbleweed をベースとした Linux ディストリビューション AlexandriteOS を紹介しました。
バージョン 3.0 でこの完成度。
ふつうにメインでも使える Linux ディストリビューションではないでしょうか?
今回の動画で紹介した画面は Virtualbox で動作させたものを使っていますが、実機にインストールして使っています。
GNOME ですが、非力な中華 PC でもある程度快適に使えています。
さすがに Celeron N3xxx は厳しいですが、N4xxx ならけっこうサクサク動いてくれます。
RAM も 4GB でもイイですが、やっぱり 8GB とかあると違いますね。
しかしながら、実に良いディストリビューションです。
open.Yellow.os の開発が始まって、コダシマ自身プログラミングの勉強をはじめたのですが、Linux での開発環境の構築しやすさに驚きました。
おもに C++ を勉強しているのですが、コンパイル環境なんて「あれ?なにかしたっけ?」という感じです。
ラクすぎるのも勉強になりませんが、自信をつけるのにはいいかもしれません。
開発者を見習って自己研鑽に励みたいと思います!
皆さんの AlexandriteOS の感想などコメント欄にぜひぜひお願いします。