今回はレトロブライト (Retr0bright) という、ビンテージPCのレストアに使えるネタを紹介します。

レトロブライトはずいぶん前からあったと記憶しているので、すでにご存じの方もいるかと思います。

コダシマはどちらも実際にやってみたことはありませんでしたので、夏休みの自由研究気分でやってみました。

■レトロブライト。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】
http://www.retr0bright.com/

レトロブライトは一言で言うと古くなって黄ばんだケースを漂白するというものです。

公式サイトや Wikipedia で調べてみると、変色する仕組みや、それを漂白する仕組みが紹介されています。

その内容は、まるで化学の実験みたいな内容になっています。

そこらへんもザックリですが紹介したいと思います。

黄ばみのメカニズム。

まず黄ばみの仕組みです。

レトロブライトは「アミーガ」というコモドールによって販売されていたコンピュータのレストアが元ネタなのですが、そのアミーガを始めとした PC のケースとかは ABS 樹脂というプラスチックが使われています。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

ちなみにこのABS樹脂は、アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)を混ぜて作られ、この原料の頭文字をとって ABS 樹脂と名付けられました。

  • Acrylonitrile
  • Butadiene
  • Styrene

で、このプラスチックがイロイロな原因で変色するわけですが、その原因は大きく分けて2つあるようです。

  • ABS 樹脂の材料そのものが劣化して変色したもの。
  • ABS 樹脂の添加物が化学変化して変色したもの。

ちなみにこの黄ばみのことを黄変(おうへん)と呼びます。

ABS 樹脂の材料そのものが劣化して黄変。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

ABS 樹脂の材料が変色する場合、先程すこし触れた ABS 樹脂の原料のひとつブタジエンが劣化して起こる変化です。

この場合、素材自体が劣化しているしつこい変化なので、残念ながら諦めるしかなさそうです。

ABS 樹脂の添加物が化学変化して黄変。

で、もう一方の ABS 樹脂の添加物が化学変化して変色する場合です。

こちらは、ABS樹脂に添加されている酸化防止剤による変色と、臭素系難燃剤による変色があります。

これも一つずつザックリ解説していきます。

酸化防止剤が原因の場合。

酸化防止剤による変色は「暗所黄変」とも呼ばれるもので、大事に暗いところにしまっていたにもかかわらず、久しぶりに出してみると黄ばんでるという、謎の現象のことです。

これは要因が多岐にわたるため、正確なメカニズムは解明されていないようですが、ABS 樹脂の素材に含まれている酸化防止剤が、周りの環境の影響を受けることで変色してしまう「フェノール系黄変」によるものということらしいです。

例えば、ダンボールとか押入れとかにしまっておく場合、ダンボールや、押し入れだとベニヤ板などで使われている接着剤の化学物質ですね、それが酸化防止剤と結びつくことで変質し、黄ばみ物質を発生させるという感じです。

ほかにも大気中の窒素酸化物も酸化防止剤と結びつくことで、似たような現象が起こるようです。

このタイプの変色は「酸性の雰囲気に置く(酸性っぽいところに置いておくってことですかね?)」「紫外線を当てる」ことで元の色に戻るとのことです。

ほぅ。

臭素系難燃剤が原因の場合。

臭素系難燃剤による変色の場合、この難燃剤が日光などに含まれる紫外線にさらされて分解し変色するというものです。

このタイプを漂白するには、臭素化合物の配位結合を切って、水素と共有結合させて表面から取り除くということらしいです。

ちょっと何言ってるかわかりませんね。

いずれにしろ、レトロブライトの本筋はこの ABS 樹脂の添加物による黄ばみをなんとかしようというテクニックのようです。

Retr0bright

レトロブライトの公式サイトでは、細かくレシピなども紹介されていますが、そもそも何をするかというと、

1. 過酸化水素水に漂白活性化剤を加えた液体を黄ばんだ部分へかける。

2. そこへ紫外線を当てて化学反応を起こさせ、臭素の配位結合を切る。

3. その化学反応によって過酸化水素水の水素と配位結合の切れている臭素が共有結合する。
(共有結合は配位結合よりも強いので、この場合臭素は優先的に水素と結びつくということです)

4. 臭素が脱色され黄ばみが取れる。

ということです。

なんか、わかるようなわからないような…ですが、

とりあえずこれに使う、過酸化水素水に少量の漂白活性化剤を加えた物質がレトロブライトということになります。

つまり、酸化防止剤や難燃剤によって起こった変色を、レトロブライトと紫外線を使った化学反応で元に戻そうという試み。

薬品を使うとはいえ紫外線で黄ばんだものを、紫外線を使って漂白するってなんだか不思議な気もしますね。

ちなみに過酸化水素と言われるとなんだか小難しいですが、医療用の消毒薬として売られているオキシドールも過酸化水素で、スーパーとかホームセンターで手に入る衣類用の液体漂白剤の多くも過酸化水素が使われています。

そう聞くと、なんかわりと身近に感じますね。

Retr0brightの概要

で、以上の内容をレトロブライト的にまとめられたのが

1. 過酸化水素水は濃ければ濃いほどよい。12%ならば最もよく、6%でもよいいが反応に要する時間は長い。

2. 紫外線は日光、UV ランプのどちらでも良い。

3. 1ガロンあたりティースプーン約1/4ほど、漂白活性化剤を含む酸素系漂白剤を添加する。

※キサンタンガムまたはクズウコンをこの化合物に添加すると、簡単にゲル状にすることができる。

というものです。

漂白活性化剤にはテトラアセチルエチレンジアミンという物質を使うと、ABS 樹脂を痛めることなく短時間で漂白できるとのことですが、これまた何言ってるかわかりませんね。

またこの情報は海外のものなので、日本でのやる場合はことの通りにはできません。

日本での過酸化水素の取り扱いは消防法で危険物として規制されており、高濃度の過酸化水素は一般の入手が難しいです。

そこで代用品として先程もちょっと触れた、酸素系漂白剤を使います。

ちなみにオキシドールは漂白剤よりもさらに過酸化水素の濃度が低いっぽく、レトロブライトには不向きなようです。

酸素系漂白剤?

お店に並んでいる漂白剤にもいくつか種類があります。

主にキッチン周りで使われる塩素系漂白剤と、主に衣類に使われる酸素系漂白剤です。

ちなみに塩素系漂白剤と酸素系漂白剤は混ぜてはダメと言われています。

その理由は、これらが混ざることで「塩素ガス」というとても毒性の強いガスが発生します。

塩素ガスは人類初の化学兵器として第一次世界大戦でも使われたと言われるほどの危険物質です。

その影響は、まずガスが入り込む呼吸器や目・口腔と言った組織を破壊するため、目や鼻・喉に痛みが生じます。

またそれほどの量を吸い込んでいなくても、呼吸困難や頭痛・めまいや吐き気などの症状が出てくるようです。

さらに、塩素系の漂白剤の場合には、漂白剤だけでなく酸性のものへの注意も必要です。

例えば

  • クエン酸
  • 食塩
  • アルコール類

なども注意が必要なものになります。

レトロブライトには酸素系漂白剤を使います。

ただし、この酸素系漂白剤にも種類があるので注意が必要です。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

酸素系漂白剤では、主に粉末の過炭酸ナトリウムのものと、液体の過酸化水素のものとがあります。

粉末で使われる過炭酸ナトリウムは、水に溶かすと炭酸ナトリウムと過酸化水素に別れます。

レトロブライトでは過酸化水素が必要なので、粉末でも良さそうな気もしますが、水溶液に問題があるようです。

粉末系漂白剤の水溶液は弱塩基のため、フェノール劣化には効果がありません、ということです。

ちなみに塩基とは、化学において酸と対になってはたらく物質のことです。

いわゆるアルカリ性というやつです。

フェノール劣化にも効果を発揮させるには水溶液は酸性のほうが良いということなので、水溶液が弱アルカリ性やアルカリ性の場合は効果がないということになります。あったとしてもめちゃくちゃ効果は薄いってことなんですかね。

つまり、水溶液が酸性の場合であれば、対処できるということですね。

で、液体の酸素系漂白剤には、界面活性剤やテトラアセチルエチレンジアミンと同等の漂白活性剤が含まれているため、使うのであれば液体の酸素系漂白剤のほうが良いという結論です。

レトロブライトの材料。

公式サイトなどでは、主にマーリンのオリジナルレシピとローンのバリアントレシピが紹介されています。  

マーリンのオリジナルレシピ

  • 500mlの過酸化水素水 (濃度10~15%)
  • キサンタンガム 大さじ×1 (15cc)
  • グリセリン 小さじ×1 (5cc)
  • 酸素系漂白剤(Oxy)  小さじ×1/4 (1.25cc)

ローンのバリアントレシピレシピ

  • 200mlの過酸化水素 (濃度30%)
  • キサンタンガム 小さじ×2 (10cc)
  • グリセリン 小さじ×1 (5cc)
  • 酸素系漂白剤(Oxy) 小さじ×1/4 (1.25cc)
  • 熱湯(沸騰してない) 小さじ×1 (5cc)

この他にもいくつかのバリエーションがありますが、いずれも日本では難しいものばかりです。

ですが調べてみるとレトロブライトに近い効果が期待される漂白剤が売られています。

日本版レトロブライト。

花王が販売しているワイドハイターEXパワーがそれです。

ワイドハイターEXパワーの主な成分

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  • 漂白剤:過酸化水素(酸素系)
  • 界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル
  • 漂白活性化剤:アルカノイルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム
  • 液性:酸性

なので、いちばん楽なのは、ワイドハイターEXパワーにつけて天日にさらすという方法ですね。

ということで買い物にでかけました。

その途中、だた漂白剤につけるだけだと量が必要になると思い、当初キサンタンガムやグリセリンを使ってゲル状にして塗ってみようと考えていました。

ですが今回はキサンタンガムやグリセリンまで揃えるより、漂白剤を増量したほうが安く上がったので漂白剤だけにしました。

ちなみに、お店の漂白剤売り場をいろいろ見ていたら、ブライトSTRONGも同等の成分っぽかったので、こちらも比較のために購入してみました。

ブライトSTRONG

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  • 漂白剤:過酸化水素(酸素系)
  • 界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ほか
  • 漂白活性化剤:?
  • 液性:弱酸性

さらに、ホームセンターのプライベートブランドのものまであったので、それも試してみることにしました。

こちらはべらぼうに安かったです。

たぶんワイドハイターEXパワーではなくワイドハイタークラスの成分ではないかな?と思います。

PB漂白剤

  • 漂白剤:過酸化水素(酸素系)
  • 界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ほか
  • 漂白活性化剤:?
  • 液性:弱酸性

加えて、漂白剤の蒸発防止プラス万が一の雨対策のために蓋付きのボックスを探しました。

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ファミコンの外形寸法:幅150mm×奥行き220mm×高さ60mmに合うものです。

影ができるとムラになるようだったので、なるべく透明っぽくて、ファミコンのサイズに近いものを探しました。

あんまり大きいと漂白剤の量が必要になりますからね。

で見つけたのがこちら。

結構ぴったりサイズなので普通にファミコンの収納にもおすすめです。

ホームセンターに当たり前に売っていると思いますが、見つけられない場合のために動画説明欄にAmazonのリンクを張っておきます。

これで準備は整いました。

実験開始。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

まずは分解。

今回の実験のために、あえて変色したファミコンを何台か入手しました。

ただちょっと変色の度合いが違うため、厳密な結果は出ないと思いますが、漂白前と漂白後の比較はそれぞれできるかと思います。

ちょっと思ったのは、ファミコンには前期型と後期型あるのはみなさんもご存知のところかと思います。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

一般的にはステッカーの「FF」マークの有無や、基盤の違いが挙げられますが、変色の具合も見ていくと前期型と後期型では違いが見られました。

前期型よりも後期型のほうが目に見えて黄ばんでいるものが多く、変色の度合いも高いように感じました。

もしかしたら本体の素材自体も成分も変わっていたのかもしれませんね。

で、ケースに入れて漂白剤で浸します。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

このケースに対しての漂白剤の量は1700ml程度が適当かと思われます。

買うお店とタイミングによって違うと思いますが、参考までに総量と金額を比較してみると

  • ワイドハイターEXパワー総量1760ml、購入金額596円 (1mlあたり0.34円)
  • ブライトSTRONGは総量1710ml、購入金額576円 (1mlあたり0.34円)
  • PB漂白剤は総量2160ml、購入金額264円 (1mlあたり0.12円)

となりました。

ウチでいちばん日当たりの良い天井に、ダンボールで実験台を作り設置。

黄ばんだケースを漂白するレトロブライトをやってみた:おじさんの夏休み自由研究【前編】

天気が良いというか、紫外線が強い日であれば2~3日程度でも良いっぽいのですが、インターネットを調べてみると目安として1週間くらいだったので、1週間晒してみます。

なので、実験台は一応の雨対策もしています。

さて、結果はいかに?