今回もまた特別なテクノロジーについて話をしましょう。それは、あなたのスマートフォンをパワフルなLinux マシンに変えることができる、Droidian というプロジェクトです。
Droidian は、Android デバイス上で Debian Linux を動作させることを目指すプロジェクトです。この Droidian によって、あなたのスマートフォンは、Linux コンピュータとして使うことができるようになります。
モバイルデバイスの可能性を最大限に引き出すための新しい道を切り開くであろう Droidian。
早速この興味深いプロジェクトについて、見ていきましょう。
Droidian とは?
Droidian の物語は、スマートフォンの可能性を最大限に引き出すというアイデアから始まりました。
私たちの手元にあるスマートフォンは、実は驚くほどのパワーを持っているコンピュータです。しかし、限定的なモバイル OS の制約により、十分に活用されていないと感じた Droidian の開発者たちは、スマートフォンをフル機能の Linux マシンに変えるという革新的なアイデアを思いつきました。このアイディアによって、ユーザーはスマートフォンを使って、通常はデスクトップコンピュータでしかできないような作業を行うことが可能になります。
Droidian の目的は、Android デバイス上で Debian Linux を動作させることです。これが実現すれば、ユーザーはスマートフォンを使って、プログラミング、データ分析、ネットワーク管理など、さまざまなタスクを行うことができます。スマートフォンの可能性を最大限に引き出し、ユーザーに新たなコンピューティング体験を提供することこそが Droidian の目的です。
それでは、このプロジェクトがどのようにこれを実現しているのか、見ていきましょう。
Droidian のベース:Mobian
Droidian を理解するためには、その基盤となるプロジェクト、Mobian についても少し知っておきましょう。Mobian は、スマートフォン上で Debian Linux を動作させることを目指すプロジェクトで、特に PINE64 の Linux スマートフォン「PinePhone」に焦点を当てています。
機種は限定されるものの、 Mobian は既にスマートフォン上で Debian Linux を動作させるための重要な基盤を提供しており、Droidian は Mobian の成果を活用することで、Android デバイスに特化した改良を加えることができました。
Mobian の特徴としては、スマートフォン向けのユーザーインターフェースを提供する「Phosh (Phone Shell)」や、ハードウェアとソフトウェアの間の橋渡しをする「libhybris」などがあります。これらの技術は、Droidian が Android デバイス上で Debian Linux を効率的に動作させるための重要な要素となっています。
ざっくりいうと Mobian を Android デバイス上で動かすために開発されたのが、Droidian と言ったところです。
では次に、この Droidian がどのようにこれらの技術を活用し、どのような特徴を持っているのかを、ちょっと覗いてみましょう。
Droidian の主な特徴
Droidian の魅力は、その技術的な特徴にあります。Droidian は、Android デバイス上で Debian Linux を動作させるために、いくつかの重要な技術を活用しています。
その中で、最も特徴的なのが先程 Mobian の紹介で触れた「libhybris」と Ubuntu Touch などで名前を聞く「Halium」と言った技術です。
どちらも Linux システムが Android のハードウェア抽象化レイヤーを利用できるようにする仕組みで、これらによって Droidian は Android デバイスのハードウェアを直接利用することができます。
で、「ちょっと何言ってるかわからない」「ハードウェア抽象化レイヤーってなに?」という方もおられると思うので、ざっくり説明すると、ハードウェアの抽象化とは、上位層のプログラムから周辺機器などのハードウェアを抽象化する(対象から注目すべき要素だけを重点的に抜き出して他は捨ててしまう)手法で、HAL = Hardware Abstraction Layer(ハードウェア抽象化レイヤー)と呼ばれています。
細かいことは気にしないで大筋だけ抜き出せるようにするイメージですかね?
で、この HAL は、プログラムの移植性を高めるために使用されます。プログラムを移植する際に、周辺機器などのハードウェアが異なる場合でも、HAL により上位層のプログラムに変更を加えることなく移植することができます。
この他にも様々な技術を活用し、これらの技術の組み合わせにより、Droidian は Android デバイス上で Debian Linux を動作させることが可能になりました。これにより、ユーザーはスマートフォンを使って、通常はデスクトップコンピュータでしかできないような作業を行うことができます。
といったところで、Droidian を実際に使ってみましょう。
Droidian のインストール
それでは、Droidian をどのように利用するのか、その具体的な手順を見ていきます。
現状では公式デバイスとしてサポートされているデバイスは限られていますが、対象機種であれば専用のインストーラーを使ってインストールすることができます。
fastboot でフラッシュしたり、リカバリーモードでフラッシュしたりする方法も用意されているようですが、対象機種でインストーラーを使うのが Droidian の最も簡単なインストール方法です。インストーラーであれば専門知識とかがなくても勇気さえあればできます!※あくまでも個人的な見解です
というか、Droidian インストーラーも用意されてはいるのですが、実は Ubuntu Touch インストーラーで行けます。
ご覧の通りアイコンも GUI インターフェースも、ほぼ Ubuntu Touch のママです。しかも、Ubuntu Touch Focal を紹介した際にも、ちらりと触れた通り、インストール OS の中に Droidian が含まれています。逆に Droidian のインストーラにも Ubuntu Touch が含まれています。
そのため、Ubuntu Touch をすでに試したことがある方であれば、最新版にする必要はありますが Ubuntu Touch インストーラーを使って Droidian をインストールさせる事ができます。インストールの手順も概ね Ubuntu Touch のものと変わらないため、以前の記事もぜひご参考ください。
※若干手順は異なりますが、画面に表示された指示に従うことでインストールできます。
Droidian の設定やトラブルシューティングは公式 Wiki があるので、そちらを利用しましょう。
Droidian インストーラー
ここから、簡単ではありますが Droidian のインストーラーについて紹介します。
今回も Google Pixel 3a XL にインストールしていきます。Pixel 3a は対応の幅が広いので、コダシマのようなもの好きには、とても良いおもちゃです。
Droidian のインストーラーもまたインストールの際には、英語で指示が表示されますが、 Ubuntu Touch の時と同様に Android 9 へ戻しておくことと OEM ロック解除は済ませておきましょう。
はい、このタイミングで Ubuntu Touch か Droidian を選ぶことができます。先程お伝えした通り、Ubuntu Touch も選べるようになっています。
ここでは UI が選べます。
デフォルトの「Phosh」かプレアルファ版の「Cutie Shell」を選ぶことができます。今回は phosh を選びます。
しばらくするとスマートフォンの画面が切り替わり、Bootloader ロック解除の指示が表示されます。
あとは待つだけです。
インストーラー側で終了を知らせる表示と、スマートフォン側で Droidian のロゴが表示されれば、インストールは完了です。
あとは Droidian が起動するのをひたすら待つだけです。
※起動に時間がかかります。
Droidian を使ってみた
Droidian のインターフェースは PureOS の Purism が Librem 5 向けに GNOME デスクトップをベースとして開発した「phosh」が採用されています。このインターフェースは Droidian のベースでもある Mobian や、以前紹介した postmarketOS でも採用されているモバイルデバイス向けのインターフェースです。
https://puri.sm/
確かに GNOME っぽいところもありますが、Android のような操作感もあります。Ubuntu Touch の Lomiri よりも若干重たさを感じますが、それでもサクサク動いてくれる感じはします。
初回起動時に日本語環境の設定をすることができますが、再起動まで反映されません。初回起動設定が終わったら一度再起動しておきます。ちなみに、日本語入力環境は「Anthy」です。
再起動後は、フォルダの表示も日本語にするかを聞かれます。
システムはほぼ翻訳されているので、設定等で困ることは少ないと思います。
一般的なアプリのインストールができるものなのか試してみたくなり、「GIMP」を検索してインストールしました。
見事インストールできましたが、画面が狭すぎて何もできません。Ubuntu Touch のように画面をミラーリングしてデスクトップモードで使えるようになるといいです。
またカメラもテストしてみましたが、真っ暗でした。何も撮影できません。
SIM 通話のテストもしてみました。
はじめのうちはうまく SIM を認識してくれませんでしたが、再起動後に認識するようになりました。どうやらいちいち再起動が必要かもしれません。また、APN 設定については Android 向けに提供されている設定内容の情報で問題なく設定できます。
ですが、アイコンの反映が不安定で、通話ができるか心配でしたが、mineo (ソフトバンク回線) の SIM で無事に通話することができました。
Ubuntu Touch でもモバイル通信周りの設定など万全な状態ではないところを見ると、モバイル通信については、まだたくさん課題がありそうです。電話として使うのであれば、まだ Android ベースの OS のほうが優秀なのかもしれません。
それと、インストーラーの UI 選択の際に「Cutie Shell」という文字がありました。
こちらはまだプレアルファ版という全くの未完成品のため、使うのであれば不具合を覚悟しなければいけませんが、好奇心には勝てません。不具合を承知でインストールしてみました。
見た目はなかなか良いです。が、現状ではほんと見た目だけです。コンソールを使ってみると、キーボードも使いにくく、カーソルの位置も悪いため入力している文字がわかりません。
ただインターフェースの使い勝手は、Android と Ubuntu Touch をかけ合わせたような雰囲気があります。
まだまだ機能が足りないので使い物にはなりませんが、このクオリティの UI で、機能も充実してくれば、モバイル Linux がもっと充実してくるかもしれないと思うコダシマです。
Droidian のまとめ
それでは、今回の Droidian を簡単に振り返ってみましょう。
Droidian は、Android デバイス上で Debian Linux を動作させることを目指すプロジェクトです。
「libhybris」や「Halium」と言った Android のハードウェア抽象化レイヤーを利用できるようにする仕組みを使って、Android デバイスで Debian Linux を動作させることを実現しています。
この Droidian によって、スマートフォンは単なる通信ツールから、パワフルなコンピューティングデバイスへと変貌します。
とはいえ、まだ始まったばかりのプロジェクトのため、不具合や物足りなさはまだまだございます。
また公式デバイスとしてサポートされているデバイスの数もごくわずかです。
しかしながら、公式サポート対象のデバイスであればインストールはとても簡単です。
まだまだ「これから」といった印象は否めませんが、新しい可能性を秘めた Droidian。興味を持った方はぜひチェックしてみてください。